あしあとモンチッチーズ

なんかいろいろ好き勝手書いてます

臨時更新

 いや先月更新できなかったなと思ってたらもう2か月近く停滞してた。ジョジョASBRばっかやっててごめんなさい。ということで以前から知人がオレの小説載せてくれとうるさいので載せてみます。SNSの時代なんだから自分で載せなさいよ!

 

 

序章

 

 昼間は足が丁度いい暖かさだった。あのうっとりする温もりはアロマキャンドルを連想させるものだった。瞼が緩む、力が入らない、思考がまどろむ…という抗い難い誘惑があったのだ。だが夜になると全く抗えてしまう。足は暖かい通り越して燃えるように熱いのだが思考はくっきり、眼はぱっちり。眠るべき時間なのにその意思は全く眠る方向に働いてくれない。明日は早いのにどんどん意識は鮮明になっていく。夢を見ようと集中し過ぎて瞼が痛い。時計は焦るから見ないようにする。だが、不安は募る、募る…。

募る・・・。



 

 

 

幕間

 

「ここを通りたくば、この我を倒してもらおうか!」

 結局寝坊したため急いでいた私は、立ち往生を喰らっていた。ここを通る以外道は無いのに城の中の男を倒さねばいけなくなったのだ。しかも中に入るには管理人さんから支給されたカードキーが必要になる。私は住人だから持っていない。

 そうだ!市役所に行けば貰えるではないか。私は急いでそこへ向かうことにした。行き先とは逆方向に向かって船を漕ぐ。暑さで景色は歪み、道路には車が一つも無い。もう夏だなあとか夏休みは何しようかあとか考えている内に赤い家を通り過ぎた。この家が見えたのならば市役所までもうすぐだ。そこからは歩くことにした。

 市役所に来るのは引っ越し手続きを出したあの日以来だった。到着してすぐ目に入った市役所の壁は見事なオレンジ色をしており、建物の中央にはビッグベン風の時計塔が聳え立っていた。これを見る度、ロンドンで過ごしていた思い出がよみがえる。

 あの頃は良かった。今の様に時間に追われることもなく、自由気ままに過ごしていた。同じ部屋に住んでいたフルート吹きのブルートが作るブリトーは最高の一品で、街中の人間が絶賛していた。私とブルートはルームメイトでありながら、あまりお互いに干渉し合うことは少なかった。だがそれが非常に心地よかった。私たちはそれぞれの時間を上手く一つの空間に収め、のんびりと暮らしていた。思い出を振り返る余裕さえない今とは大違いだ。落ち着いたころにブルートの話は再開するとしよう。

 

 私は市役所の長い階段を下りて、黒煙湧き出る発券機から番号札を受け取った。そこから玄関まで戻り、ロビーで待ちながら申請書を記入することにした。うちの市の役所はどんな行列もあっという間に捌いてしまうのが売りで、他の市からも大勢人がやって来る。だから申請書は呼ばれる前に急いで埋めなくてはならない。

「65番の番号札のお客様、23番窓口へお越しください」

「71番の札のお客様、18番窓口までお越しください」

「8a番の札のお客様、24番カウンターまでお越しください」

「いや16進数だったの!!???」

 8a番、私の番号である。あまりの高速対応に申請書はFAX番号の途中までしか埋められなかったが、そのまま仕方なくブルーライトの眼鏡をした男性職員の待つ窓口まで向かうことにした。

「ハイ、【私】さん…難しい字ですね。今回のご用件は通行証の発行ですね。一体どこのでしょう」

「五条悟9丁目のお城に入れる奴です」

「あー、それならこの書類を埋めて10番窓口まで行くんだね。黄色鉛筆で記入するんだよ!いいね!」

 

 黄色鉛筆は全て折られていたため、仕方なく私は黄色のチャコペンで記入した。牛肉の臭みを消すならこれでも良いだろう。10番窓口まで行くとトムソンがポムソンに書類の説明をしていた。あの様子ではもう少し時間がかかりそうだと思った矢先、

「お客様―!こっちの窓口が空いていますよー!」

 と元気なお姉さんが親切に声をかけてくれた。こういうのを「一目ぼれというのだろうか。こんな只一人のお客でもある私に丁寧に接してくれたのが嬉しいし、笑顔が綺麗。結婚するならこんな女性が良い。後ろ髪を纏めたお団子が素敵です」

「あのうお客様、途中から声に出ていますよ」

 さっきまで元気だったお姉さんが途端顔を赤らめしおらしくなってしまって可愛い。

「すみません、お姉さんと結婚したいのですがどこで手続きは出来ますでしょうか」

「えっえっ、えとあの、婚姻届けなら隣のe6番窓口でう、受け付けてますよ」

 お姉さん焦ってる。焦らせてごめんなさい、でも可愛いです。私はお姉さんの恥ずかしそうな、でもまんざらでもなさそうな顔を見つめながら隣の窓口へ移る。お姉さんはピースで返してくれた。ラブリィ。

「お客さん、あのコはちと特別だよ。彼女の境遇にも訳はあるが、兎に角うちの看板娘なんだ。ここじゃあ手続きは出来ないよ。1番カウンターへ行きな」

 e6と彫られたプレートの前で魔女みたいな風貌のドレッドヘア婆さんが私に語り掛ける。

「窓口は2番始まりのようですが」

「カウンターとお言い!1番は少し遠くにあるんだ。南東へ向かって歩いてごらん」

 私は婆さんの指示通り南東の通路を進むと、道は段々と暗くなっていく。照明が音を立てて点滅する。一定間隔で設置されるゴミ箱には大量のアブラゼミが入っており、どれも生きて音を立てていた。やがてゴミ箱は途絶え、鉄の床を鳴らす私の足音以外聞こえなくなる。足元が見えない位暗い。しかしスマホ等で照らしてはいけない気がした。自身を包む漆黒が崩れ去るのを恐れる自分がいた。この一切の声明を感じさせない闇を心地よく思う自分がいた。ポムソンもいた。そう感じながら歩き続けていると壁にぶつかった。

 

 壁を手触りで確認すると友達の家で見かけた引き戸になっており、開けると外に出た。空に暗い緑とオレンジのグラデーションがかかっている。寒い、そうか雪のシーズンになったか。外の世界では周りが断崖絶壁になった一本道が続いており、遥か遠くに見える行き止まりには一番窓口が私を待ち構えていた。私は再び真直ぐ歩く。崖の下では冬の海がさざめいている。水面は中のクラゲやクラブ、英和辞典がはっきりと確認できるほど美しく透き通っており、暖かくなったらここでのんびりしたいと思った。

「ドォオン…ゴアアァァッ!!」

 閃光。瞬く間に雷の声が辺りに轟く。しまった、この薄暗さは雷雲か。私は今白ワンピしか身に纏っていないため只でさえ寒いのに、雨なんか降られたら絶対に風邪を引いてしまう。止むまでさっきの暗闇に戻るか?だが雨は一向に降らない。ふと窓口に目をやると先ほど落ちたと思われる雷が受付席に着いて私を待ち構えていた。

「要件は何ですか?」

「かくかくしかじか、婚姻届けを取りに来ました」

「それならこのチゲ鍋を持って51番窓口まで行ってください」

 おいおいおいおい、またたらい回しかよ。勘弁してくれ、これだから役所は嫌いなんだ。雷はよく見ると名札をしている。アマゾンプライムというのかお前は。覚えとけ。この窓口以外に道は確認できなかったので踵を返す。すると門の前には、さっきまでいなかった男が立っていた。

 

 それは皆に愛されたかつてのルームメイト。死刑囚となり、重い足枷をつけたブルートがいた。

 

 

 一年ぶりに見るその顔はひどく痩せこけており、目にはどす黒いくまができていた。彼の罪を表象する足枷はかの有名デザイナー、ババ・トシゾウによるものであり、従来のものとは一線を画す鎖の形状、ゲーミング発光しながら劇中の変身音が鳴る足輪部分、翻訳基礎の受講券にもなる鉄球等が魅力の、子供も大人もおじいさんも一目惚れして欲しがった昨年度最大級の売れ筋商品である。私は手に入れられなかった。その理由は同じく昨年度最大級のカタストロフとして転売ヤーの大群が襲来したからだ。バイヤーと売屋が掛かっているからこの言葉は面白い。

「気に入ってもらえて何よりです」

 見下ろすとそこには言葉遊びを司る虫がいた。

転売ヤーというのは私が人間界にもたらした言の葉です。もう何オクタサイクルも言葉遊びを司らせてい頂いておりますが、このようにして褒められたことは滅多にありませんでした。最後に褒められたのは確か《※日本語表記不可の音声》を作った時のことでしょうか。くふふ、気分が良いので貴方様の願いを一つ叶えてあげましょう。何でも一つです。何にします?貴方が今着ている囚人服を向こうの死刑囚と同じ縞模様に変更差し上げましょうか?それともあの足枷がご希望ですか?おっとお名前を聞いていませんでしたね、何々…くろかっこ…【私】さんと言うのですね」

 私は現在時間に追われている状況を彼に話した。

「成程、では周囲の時間をゆっくりにしてあげましょう。それなら貴方を急かすものは一切なくなりますよね」

 すると私の心臓を素手で握りしめるように、身体の奥底から気持ちの悪い漠然とした物が這い上がってきた。何が何だかよくわからないがきっとこれは罪の意識だ、焦燥の意識だ。脂汗、脂汗、苦しい、頭が混乱している。時間がないと言っていた先の思いとは逆に今この一瞬が何時間何年にも感じる。時間がゆっくりってそういうことかよ。

 我が安寧を取り戻すには何かをしなきゃならない、でも何を?前を向く。嗚呼、我が咎の表象が目の前にいる、ブルートだ。ブルートに謝らなくてはならない。彼を死刑囚になってしまったのは私が原因なのだ。罪の意識が鮮明になる程、彼は大きくなる。だのに声が出ない。体の穴と言う穴から湧き続ける汗はいつの間にか汚い色となり、辺り一帯を黒く濁していた。遠くで電子音が鳴り響く。赤茶色の空を下地に雲がゲーミング発光をしている。大きくなり続けるブルートが口を開く。

「ここを通りたくば、我を倒してもらおうか」

 城の声だ。ああそうか、私を行くべき道から遠ざけ、彷徨わせていたのは、私だったのだ。自身の罪と向き合うのを恐れて逃げていたのだ。気づけばブルートの体格は冥王星程大きくなっていた。ブルートがプルートになった。このままでは圧死してしま――。

 

 

 

 

 

 

「やっべ!遅刻だ!」

 見知った天井がある。スマートフォンはアラームがとっくに鳴り終えたことを示していた。どたどたと準備して自転車に跨る。焦る。焦る。しかし、その理由はこの忙しなさではない。私を急がせるものは、あのどす黒い私の罪だ。

 いつか、いつの日かブルートに会いに行かなくては。

 

 

 しかしあの受付のお姉さん、実在しないのかあ。

 

未完

 

 

いや未完かよ。